作家の卵の白身にすら及ばないソレガシ

なんだろうか、この圧倒的支配力を持った漆黒の雨雲は。毎晩毎晩、この雨雲が、僕の心を覆いつくしてくる。目をつぶれば、すぐに、ウワ〜と押し寄せてくる。この感情は、医学的に、あるいは心理学、脳科学的に当然のごとく解明されているのだろうけど、そんなことは僕にとって知ったこっちゃない。ただただ自己の中で、この雨雲と真っ向から向き合うだけ。たまにその雨雲は、僕のことを弱者と呼び、嘲笑ってくる。嘲笑ってくるから、僕はクソウと思って、その雨雲に真っ向から戦いを挑んで突き進んでいく。すると、いつの間にか朝になって雨雲はいつの間にか居なくなっている。こんな感じに、僕のことを弱者とあざ笑う雨雲は、少し恐怖を感じるが、すぐに倒してしまうことができる。本当に恐ろしいのは、無言の雨雲だ。この雨雲は本当に手強い。なんてったって、嘲笑ってこないのだ。敵か味方かも分からない。ただ、そこにいるのだ。その無言の雨雲に、なぜお前はそこにいるのだ、と聞いても全く返事が返ってこない。そこで、少しその雨雲に触れてみる。しかし、何の反応もない。僕は、今夜この雨雲に真っ向から戦いを挑んで突き進まなければならない。さてどうしたものか。どうすれば、この雨雲を倒せるのだろう。あまりにも理解し難いものが、目の前でズッシリと構えられるほど恐ろしいものはない。あぁ、どうしたらいいのだろう。進むのが怖いよぅ。そこで僕は少し考えてみる。そうか、この得体の知れない漆黒の塊とお友達になってしまえばいいんだ。でも、忘れていた。この雨雲はしゃべらないんだった。その時、「おいお前、聞こえるか。おーい・・・おーーーい!」という声が聞こえた気がした。すぐに僕は周りを見渡した。でも、自分以外にこの空間に入ってこれる人間がいるわけがない。しかも、今回の雨雲は、無言の雲だ。喋る奴なんて今ここに存在しようがないのだ。するとまた、「おーーい」と聞こえてくる。その時、僕はようやく気付いたのである。その声は、僕の心の中から聞こえてくる声だ。「やっと気付いたか。おいらの名は、シロ。おいらはあの無言の雲を操作してるんや。しゃべりかけても返事せんのは、当然のことじゃ。あれはおいらのおもちゃなんだ。ところで、お前の名前はなんじゃ?」僕はこの質問をしてくる、シロというやつがあまりにも怪しく感じて、咄嗟に偽名を言った。「油歯無だ」「ところで、なぜお前は俺の心の中に住み着いている。そもそも、ここが心の世界なのに、その世界にいる僕の心に存在しているってのは、とても理解し難いことだ。教えておくれ」すると、そのシロというやつは、ヘッヘッヘと笑い、僕の心の中から飛び出して、無言の雨雲に突っ込んでいった。僕は咄嗟に逃がすまいとあとを追いかけた。そしてすぐ後悔する。あぁ、こんな、先も見えない雨雲の中に迷い込んでしまった。誰か助けてくれ。そのように心底思ったら、またシロの声が聞こえてきた。「オーイ、こっちだよう」その声に従って突き進んでいくと、いつの間にか、僕はその雨雲の中をくぐりぬけていた。そして後ろを振り返ると、そこには、真っ白で、とても綺麗な雲がもくもくと笑っていた。